カテーテル・アブレーションの現場
カテーテル・アブレーションを受けてから不整脈もなくなり、調子のよい日が続いている。
アブレーションとは何か、という話は、専門病院のサイトなどで正確な情報を得ていただきたいのだけど、心臓までカテーテルを入れて不整脈を治療していくものだ。
忘れないうちに、そのときの様子を少し書き留めておきたい。
アブレーションを行う部屋には手術室の天井のようなピカピカした照明はなく、大学の研究室に入っていくような感じ。
ベッドは身体がはめ込まれるような、ちょっと特殊な感じのもので、そこに全身が固定されてシートがかけられる。ベッドの横にはモニターが10台ばかり設置されている。
心電図やら血圧計やら付けられ、胸から10センチほど上に設置されたレントゲンらしき機械が、遠隔操作でぴったりの位置まで動く。
ドクターは足の付け根の動脈(静脈の場合もある)からカテーテルを入れ、モニターを見ながら操作する。局麻だがそこそこ痛い。
奥の一角にもモニターがあるようで、主治医の先生はそちらを見ながらいろいろ指示を出していく。別のコーナーにもチームが控えていて、指示にしたがって電気刺激を出したりしているみたい。点滴の係の人も即座に薬剤を注入できるよう控えている。
もちろん、身体が固定されてしまえばすべて視界には入らなくなるのだが、あとは気配で様子がわかるのだ。
とにかくいろんな装置に囲まれて、複数のドクターに看護師、それに検査技師のような人もいたかもしれない。若い子たちはインターン?
若者がいっぱいいて、「ラボ」という言葉がぴったりだった。
「ラボ」って、若々しい語感。ハイテクで、明るくて。
患者としては、私の場合は6時間かかったこともあり、ひたすら「忍」の一字だった。
おかげですべて治療することができた。どうやら、1回で終わり切らず後日あらためて行うケースもあるらしい。
そうだろうなあ。やっぱり。
一度でやりきってもらえて、本当によかった。
病気と仕事のこと
私の仕事は不定期な請負仕事。忙しいときは忙しく、ヒマなときはヒマ。
昔に比べれば仕事量はずいぶん減ってしまっているが、お声がかかればお引き受けするというスタンスで続けている。
昨年の緊急入院は、仕事の段取りをつけてから旅に出て、旅先で入院することになったため、結果的に依頼先には迷惑をかけずにすんだ。
少し先に予定の入っていた仕事はお断りしなくてはならず、ドタキャンとまではいかなくてもそれに近い状態だったので、そちらの依頼先には病気のことはきちんと話した。細かな経過を伝えつつも、何しろ複雑な話だし、電話でしゃべっている本人がすこぶる元気っぽいから、どこまで伝わったことやら…。
そのほかのクライアントとは、入院と入院の間を縫うように電話とメールだけでやりとりがすんだり、退院後に依頼の連絡をもらったり、病気の話に触れる必要もなく進んでいる。
たいした仕事量ではないのでこんな調子ですんでいるが、フル回転している状態なら断るしかなかっただろう。
断ったらその後、仕事の依頼は来るのか?
そろそろ引退しようかという年齢だし、治ったといっても心臓に病気を持ってるのだ。私が仕事を依頼する立場なら、まかせてよいのか不安になってしまうだろう。少なくともガンガン頼むことはできない。もうガンガン仕事する年齢でもないので、それはそれでいいんだろう。
働き盛りなら、こんなのんきなことは言ってられない。会社勤めだったらどうなのだろう、会社によるかな。
今まで元気でやってこれてラッキーなのだから、もうちょっとだけ踏ん張ってみよう。
手術明け復活モード
手術が終われば元の生活に戻れる!
とばかりに、どんどん予定を入れていったのはよかったものの、この春就職する息子が家を出ていくことを忘れていた。
彼は彼で、私の入院中はに卒業旅行で海外に出かけていたし、それぞれの生活を送っているわけだけれども。
泊りがけで参加するつもりだった行事が、彼の出発の日とかぶっていたことに今頃気づく。
しばらくは研修期間、ほんとの引っ越しはもう少し先になるので身軽な出発ではあるけれど、見送りの日だけは空けておけるように、行事参加は前半だけにした。
ICD手帳とトリセツ
友人たちとの集まりで、ICDの素材について尋ねられた。
電池はリチウムなの?とか。
さあ‥‥。
そんなの、考えたこともなかった。
退院する時に手渡された冊子を見ると、本体はチタン。電池は銀酸化バナジウム/フッ化黒鉛リチウムと書かれている。
冊子にはシステムの概要だとか、仕様だとか、植え込みの方法なんかが載ってる。これって、トリセツなんだ。
「保存しておいてください」と言われたけど、これを使う日が来るとは思えない。いや、こうして素材を確認できたか。
「必ずいつも携帯してください」と渡されたのは、ICD手帳。
これには医療機関の情報のほか、いろんな記号やら数値やらが書き込んであって、不測の事態が起こったときに見る人が見ればわかるんだろう。
これからはいつも機械と一緒の人生、なんだなあ。
リュックを背負っても大丈夫?
入院中のことを少し。
ICD植え込み手術を終えて3日後のこと。
「何か気になることはありませんか?」
傷口チェックの後で先生に聞かれ、リュックを背負えるかどうか、思い切って尋ねてみた。
リードに負担のかかる動作がアウトなら、カメラリュックに本体とレンズ3本入れて背負うとグッと引っ張られてよくないのではないか…。
これは当初からの不安材料だったのだが、ずっと「それどころではない」モードの中で口にできなかったのだ。
それにこのたびの主治医の先生、最初はチャラそうに見えたけど、こういう話は聞きやすい。
「登山リュックのように圧迫して使うタイプのリュックは、タオルなどかませるといいですよ」
それもリードへの影響ではなく、傷口への影響の問題なのだそうだ。
よかった!
でも傷が塞がるまで、そんなことしませんってば。
何はともあれ、一歩前進!
消灯前のナースステーションにて②
なにかと的確に答えてくれるリーダー看護師のおねえさん。
この際、いろいろ聞いちゃおう。
ICDを入れても今までのような運動ができるというけど、たとえばジムなんかにも行けるのかしら…。
「うーん…。ジムでもいろんなのがあると思いますけど、たとえばこんな動きがあれば、こんなふうにするとか…」
まず腕を大きく振り上げて、次に腕の高さを顔のあたりで止めて見せてくれる。五十肩みたいな感じかな。
腕立て伏せはダメなんですよね、と話をふってみると、
「うーん…。下のほうの動きはできますよ」
ダンベルを逆手に持つようなポーズをとり、手を下ろした状態から肘を曲げる動きを示してくれる。
「こういうのはお勧めできません」
こんどは、バーベルを頭上に掲げるポーズ。
なるほど!具体的なイメージがつかめてきた。
「ジムに行ったら、シャワーを浴びるのはいいですけど、ジャグジーとかは感染症の恐れがあるので1か月間はやめてくださいね!」
わかりました!
消灯前の詰め所に、押しかけてみてよかった。